知床硫黄山
溶融硫黄噴火の謎
知床硫黄山概要
文責:山本睦徳(大阪市立自然史博物館外来研究員・サイエンスライター)
知床硫黄山は、北海道知床半島中央部に位置する安山岩質の活火山で、有史以来の活動はすべて北西山腹の1号火口(新噴火口)で起こっている。その噴火様式は、溶融した硫黄(液体の硫黄)が火口から1km以上にわたって流れるという特異なものだ。小規模な溶融硫黄流は、富山県立山地獄谷などでも見られるが、これほど大規模な溶融硫黄流は、世界的に珍しい。1980年に惑星探査機ボイジャーが木星の衛星イオに硫黄噴火をする火山を発見したが、その際にNASA(アメリカ航空宇宙局)は、知床硫黄山の溶融硫黄噴火の論文を取り寄せ研究の参考にしている(Theilig
1982)。
知床硫黄山が最後に噴火したのは1936年のことで、粘性が低い(さらさら流れやすい)大量の溶融硫黄を噴出し、現在のカムイワッカ橋(駐車場の隣)のさらに100mほど下流にまで達した(渡邊・下斗米1937)。その量は20万トンともいわれているが、地質調査所の資料には115,623トンと記録されている(地質調査所
1967)。硫黄は火薬や肥料、ゴムの原料になるため、この年の噴火で噴出した硫黄はすべて資源として採掘されてしまった。そのため現在、カムイワッカ川で硫黄を見ることはできない。ただ、噴出口の1号火口やそこから硫黄が流れ下った大広間と呼ばれる窪地、火口沢などでは、現在でも若干の硫黄片を見ることができる。また、硫黄採掘には、騙されて連れてこられた人たちが強制労働させられ、働けなくなると治療も受けられず中には殺害された人もあった。
これほどの大量の硫黄は、1号火口の東側に広がる斜面の地下帯水層で作られていることが判明した。地下帯水層(地下水脈)に火山ガスが入りこみ、ガスどうしの化学反応によって硫黄が作られる。その後、融けた硫黄が帯水層の中を流れて1号火口から噴出する(Yamamotoほか
2017)。東側斜面の帯水層では、硫黄が作られると同時に温泉も作られており、カムイワッカ川や1号火口に湧き出している。
現在、1号火口の活動はかつてほど活発ではないが、火口内では噴気があがり、時には火口底から90℃を超える強酸性の温泉が湧きだす。
もくじ
●知床硫黄山の溶融硫黄噴火
●溶融硫黄噴火の仕組み
文献:
●Yamamoto M., and Goto T., Kiji M., 2017. Possible mechanism of molten
sulfur eruption: Implications from near-surface structures around of a
crater on a flank of Mt. Shiretokoiozan, Hokkaido, Japan. Journal of Volcanology
and Geothermal Research 346 (2017) 212-222
●Theilig, E., 1982. A Primer on sulfur for the planetary geologist. NASA
Contract. Rep. 3594, 19–28.
●工業技術院地質調査所 1967 北海道金属非金属鉱床総覧
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