京都地学名所めぐり 琴引き浜
図1:美しい砂が広がる琴引き浜
琴引き浜にはなんども来たことがある。小学生の頃、家族で何度か来たし、1996年ナホトカ号が座礁して重油が流れだしたときも、ボランティアで訪れたことがある。砂の上を歩くとキュッキュッという音が出ることは聞いていたけど、実際にその音を聴いたのは、ここに取材に訪れたときが初めてだ。
この地域の人々は砂が音を出すことを「鳴き砂」と言っている。生物でもない砂に、まるで生命がやどっているかのような言葉を当てはめることから、この地域の人々の砂に対する愛情は深いことをうかがい知ることができる。
砂はどこでも鳴くのではない。琴引き浜の駐車場に車を止め、浜に入る。全く鳴かない。そこは観光客がたくさん来て砂を踏みつけてしまう場所だからだ。砂は繊細なのだ。しかし、砂浜を西の方に歩いてみる。しばらくすると、クォックォッっといった感じの音がする。足の裏を滑らせるようにして歩くとさらによく鳴く。
しゃがみこんで両手で山を作るようにして砂をこすってみた。さっきよりずっと大きな声でクォックォッと鳴く。まるで大きくずんぐりとした鳥が鳴いているような感覚だ。なんだか砂が歌をうたっているようだ。そうだ!そうなのだ!!砂がたのしい歌をうたう砂だ。楽しい歌をうたう砂だ。
しかし、何回か鳴かせていると、だんだん鳴かなくなる。その砂はもう鳴かないのだ。なぜ?
そもそもなぜ砂が鳴くのだろうか。
砂は主に石英という鉱物が丸くなった粒でできている。石英というのはガラスや時計の材料に使われている鉱物だ。窓ガラスにクギを立てて引っかくとギギギという気持ち悪い音がするだろう。ガラスとクギの摩擦が大きいため、無理にこするとガラスとクギが振動して音が出るのだ。同じように琴引き浜の砂の石英同士も摩擦が大きいため、お互いにこすれあって、音を出すのだ。
しかし、琴引き浜の砂に含まれているのは石英だけではない。小さな貝殻の破片なども含まれる。貝殻は石英より柔らかく、石英の間ですりつぶされて粉になりやすい。その粉が石英の粒に付着すると、摩擦がなくなり、石英同士がこすれあっても砂は鳴かなくなる。だから、天然の琴引き浜の砂を何度も鳴かせていると、鳴かなくなってしまうのだ。
琴引き浜の砂はデリケートにできているのだ。
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琴引き浜の夕暮れ
金色の海に
太陽は沈む