観光客が、カムイワッカ周辺を自由に歩いてカムイワッカ湯の滝で入浴したり、温泉湧出や川の地形を観察したり、硫黄噴火の跡や鉱山時代の遺構を見学できるようにしたい。
そのためには、一の滝から五の滝までの立入解禁、カムイワッカから登山道への道道の通行の解禁が必要だと考える。
私は、知床硫黄山の研究をしていて、カムイワッカ川も調査地域の中にある。カムイワッカ川は、2006年から一の滝より上流部分が立入禁止になっている。立入禁止になる前は、温泉の滝が落ちる四の滝というところで温泉入浴しているたくさんの観光客が見られた。登山道を登っていると、谷底から観光客の歓喜の声がこだましていた。本当にたのしい光景だった。
立入禁止になっている上流部の五の滝は、滝の上で82℃、pH=0.89の温泉が湧出していて、もうもうと湯けむりを上げて滝を落ちる。上流から流れてくる温度の低い温泉水と混ざり合って、滝つぼでは40℃前後の温泉浴にちょうどよい温度になっている。
カムイワッカ川の駐車場には「カムイワッカ湯の滝」という看板が設置されているが、観光客が自由に入れるのは一の滝という温度が低くほとんど水みたいなところで、これを「湯の滝」などと呼ぶのは、観光客を完全に欺く行為だ。本物のカムイワッカ湯の滝は、やはり四の滝か五の滝のことだ。せっかくカムイワッカに来るのだから、観光客には、湯けむりがもうもうと立ち上る本物の湯の滝を見てほしい。温泉湧出口や川の地形を観察してほしい。だからこそカムイワッカ川は、五の滝まで解放したいのだ。
またカムイワッカ川周辺には硫黄鉱山時代の遺構が残っている。1936年の溶融硫黄噴火で、11万6千トンにも及ぶ大量の溶融硫黄が新噴火口から噴出し、カムイワッカ川を硫黄で埋没させた。そこへ日本特殊鉱業が近代的な設備を導入して硫黄を採掘した。そのときに、鉄索(鉱山用ロープウェイ)や鉄道(鉱車軌道)などが設置されたが、廃鉱後もそれらの設備があった場所に、石垣やコンクリート土台などが残されている。例えば、二の滝と三の滝の右岸にも鉄道の後や索道の駅跡が今も残っているのだ。
知床には手付かずの自然が残っていると思われがちだが、1936年から1940年頃にかけてのカムイワッカ周辺は、日本有数の硫黄鉱山が稼働していた場所だったのだ。そこは、北海道、特に道東地域には数少ない歴史遺産が見られる場所だ。そういう歴史遺産にも観光客が自由にアクセスできて見学し、硫黄鉱山のことや歴史も知ってほしいと願っている。
■安全性はどうなのか?
一の滝から四の滝までの間で、注意すべき場所は、2か所。三の滝の20mほど下流の右岸に落石が頻繁に起きている場所があるが、そこを注意して急ぎ通過すればいい。四の滝の右岸にも崩れやすい所がある。これは、行政も把握しているので、ここではあえてこれ以上説明しない。
では、四の滝から五の滝にかけてはどうか。この区間は、右岸(上流から下流を見て右側)に亀裂が多く入った黒色の安山岩がある。見た目は崩れやすいように見えるが果たして本当か?黒色溶岩の下には、黄土色の鉄ミョウバン石によって固められた礫層があり、その下に強酸性のお湯で変質した白い岩盤が露出している。
2021年夏、この周辺でシュミットロックハンマーという道具を使って岩盤強度を計測した。するとほとんどの場所で「硬岩」という硬い岩盤でできていることが判った。亀裂が多く入った黒色の安山岩は、その下のしっかりした岩盤によって支えられて崩れずにいると考えられる。じっさい河床は岩盤が露出していて上から落ちてきた転石はほとんど見られない。仮に落石が頻繁に起こるのであれば、河床には落ちてきた転石がいくつも転がっているはずだが、それが見られない。
ただ、一か所だけ黒色安山岩の一部が本体から外れてかろうじて引っかかっている部分があるので、そこは注意が必要だ。
100%の安全はありえない。自然の川なのだから、リスクはあって当然だ。川の中のどこにリスクがあって、そのリスクにどう対処するかが重要だ。人間の知恵が試されているのだ。人類は知恵を使って火を使い、道具を作り、飛行機を飛ばし、ロケットを飛ばして人が宇宙に行けるようになった。危険だからと何も考えずに立入禁止にするのは、無能な人間のすることだ。
資料:カムイワッカ周辺の魅力を活かす
http://www.earthscience.jp/20211226kamuiwakkahandout.pdf
ダウンロード、印刷、配布、全て自由です。
カムイワッカ五の滝に関してはこちらの資料を参照してください
http://www.earthscience.jp/gonotaki.pdf
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